1.アーノルド・ジェイコブズの見解
※画像出典:http://tuba.jakubus.de/ALLGEMEINE_TIPPS/ARNOLD_JACOBS/arnold_jacobs.html
アーノルド・ジェイコブズ Arnold Jacobs
(June 11, 1915 - October 7, 1998)
1944年から1988年までシカゴ交響楽団の主席
テューバ奏者。最高レベルの金管教育者であり、
金管・木管・歌唱などの呼吸法の専門家とみな
されていた。片肺伝説があるが、実際には両方
とも肺はあった。しかし、幼少期の病気や成人
してからのぜんそくによって、彼の肺活量はき
わめて小さかった。彼の演奏哲学「Song And
Wind」という言葉は有名。
ジェイコブズの生徒でありアシスタントであった
ブライアン・フレデリクセンが、師の教えをまと
めた「Arnold Jacobs: Song And Wind」という
書籍があります。
本書中、ジェイコブズはアンブシュアに関して以下
のように述べています。
The most common problems I have seen over the
last sixty-odd years I have been teaching are
with respiration and the tongue.この60有余年、金管を教えてきた経験の中で、
もっともよく見かける問題は呼吸と舌だ。Surprisingly enough, I rarely find problems
with the embouchure.驚くべきことに、アンブシュアに関する問題は
ほとんど見かけたことがない。Unfortunately, younger brass players try to
control the embouchure tissue to control
sound.不幸なことに、若い金管奏者たちはサウンドを
コントロールするために、アンブシュアの組織
をコントロールしようとする。Jacobs simply tells them to do the opposite,
"Control the sound to control the meat. Think
less of the muscle fibers and think like a
great artist."ジェイコブズは彼らにただ正反対のことを言う。
その筋肉をコントロールするためには、サウン
ドのほうをコントロールしなさい。筋繊維のこ
とを考えるのは少しやめて、偉大な芸術家のよ
うに考えなさい。There's too much attention paid to the
appearane and feel of an embouchure.あまりにも多くの関心が、アンブシュアの外見
や感覚に払われている。There should be more attention paid to how you
sound and function.もっと多くの関心が、あなたがどのようなサウ
ンドを出しているか、どのように機能している
かに払われるべきだ。
私(水行末)には、ジェイコブズがアンブシュアを
「固定的なフォーム」とはみなしていないように思
えます。それは、もっと「動的なプロセス」として
考えられているのではないでしょうか。
2.ヨーガの行法
ヨーガ行者の成瀬雅春さんが、スィンハ・ムドラー
というきわめて高度な行法の解説にこんなことを書
いています。
写真と細かな解説は省いた。なぜなら、このスィン
ハ・ムドラーに関しては写真を見てまねするのは、
最も失敗しやすい最悪の行法になるからだ。自分の状態を鏡で確認するのは役に立つが、写真で
まねするのはやめた方がいい。行法開始から終了ま
での刻々の変化のすべてが重要なポイントになるの
で、舌を出した完成型の写真は何の参考にもならな
い。ビデオも似たようなものだ。(中略)目に見える部分にとらわれ過ぎると失敗し
てしまう。また、細かな解説を読んで練習するのも
よくない行法だ。(中略)基本的な行法さえ理解で
きれば、あとはその内容を強化して密度を高めれば
いい。
ヨーガのポーズを「アーサナ」といいますが、ここ
でも成瀬氏は、アーサナを「固定的なフォーム」と
してではなく、「動的なプロセス」と考えているよ
うに思えます。
3.動的アンブシュアの開発
教則本ハイ・エア・ビルドにおいて、アンブシュア
は以下の4点をポイントとしてあげました。
1.ウエット(WET)
2.上振下支(じょうしんかし)
3.パッカー(PUCKER)
4.【最重要】フォゲット(FORGET)
TMにおいても、アンブシュアは「固定的なフォー
ム」ではなく「動的なプロセス」と考えます。
リップフォー(ウェット、上振下支、パッカー、
フォゲット)を確認したら、あとはタングとエア
のエクササイズに集中します。
そのような「動的なエクササイズ」を経てはじめ
て、その人に必要なアンブシュアが形成されると
考えるからです。
いわば、リップフォーという「仮性アンブシュア」
が、TMのエクササイズを積むことで「真性アンブ
シュア」へと練り上げられていくわけです。
このような長期にわたるアンブシュア形成だけでな
く、短期的にもアンブシュアは固定すべきでないで
しょう。なぜなら、唇の形は演奏の中で時々刻々と
変化を繰り返しているからです。
4.善を固定すれば悪になる
アンブシュアに限らず、人間の身体はある決まった
形に固定するのはよくない。短期的にも長期的にも
「固定」しようとすることには無理があるのです。
キーワードは「動」。固定は死。動かすことで生き
てくるわけです。ジェイコブズの教えも、成瀬氏の
説明も、このことを述べているように思えます。
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