呼吸の実践的エクササイズ



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エアに課題を抱える奏者は少なくありませんが、具
体的にどのような練習をしてよいかわからないとい
う声をよく耳にします。

それもそのはず、呼吸はとても大きく複雑な身体運
動ですから、学習にもトレーニングにも時間がかか
るのです。地道に呼吸能力を開発していくほかない
のですね。

以下に参考となる文章を整理しておきましたので、
少しずつ取り入れてみられるとよいでしょう。


A.呼吸についての基礎知識

01.からっぽで吐く
02.吸うはやすく、吐くはかたし。


B.音色・音程・音域のコントロール

03.中低音でハイノートの練習を
04.ペダルでハイノートの練習を
05.アーティキュレーションで息をあわせる



C.具体的な練習方法(楽器を使わないもの)

06.【もっとも基本となる呼吸法】1-2-3-2-1
07.【実践的に役に立つ呼吸法】MOT
08.【重点的に取り組むべき課題】ハイキック〜はっぴーひーふ
09.【さらに繊細なコントロールを磨く】ヨゴヨゴ
10.【毎日の自主トレ】ヒトゴ、フタゴ、ミンジュウ
 ●ひとりの五分間(ヒトゴ)
 ●ふたりの五分間(フタゴ)
 ●みんなの十分間(ミンジュウ)
11.【勉強会もあります】ウォーター&ブレス
  勉強会のスケジュールなど詳細については本ペー
  ジ左の「メール」から黒坂宛にご連絡ください。


D.具体的な練習方法(楽器を使うもの)

12.【教則本】ハイ・エア・ビルド(HAB)
 教則本 HIGH AIR BUILD は楽器を使って毎日行な
 う実践的呼吸トレーニングです。中低音域からペ
 ダル音域を使ってローキックの練習を重ね、さら
 に高音域に向かってハイキックの練習を積むとい
 う体系的カリキュラムになっています。

 HIGH AIR BUILD
 HABs.jpg


13.【講習会もあります】タングマジック講習会
 1) 講習会について
 2) チラシを拡大する
TM2008_chirashi.jpg


***




からっぽで吐く
〜管楽器のための呼吸トレーニング〜

ウォーター&ブレス主宰 黒坂洋介
※著者プロフィールはこちら



<吸うはやすく吐くはかたし>
息を吸うことと吐くことを比較した場合、人体の構
造から考えて、吐くことのほうが難しいといわれて
います。吐くための筋肉のほうが吸うための筋肉よ
りも少ないからだそうです。

しかし、吹奏楽部を対象とした呼吸法講習会で「み
なさんは吸うのと吐くのとどちらが難しいですか」
と尋ねると、多くの生徒から「吸うほうが難しい」
という答えが返ってきます。

また管楽器演奏で呼吸にトラブルがあると考えられ
る場合、「もっとたくさん吸う」ための練習をする
ことが多いのではないでしょうか? つまり問題は
「吸い」にあると多くの演奏者および指導者が考え
ているということです。

どうして吸いのほうを難しいと感じる人が多いので
しょうか。そして呼吸のトラブルは「吸い」の練習
をすれば解決するのでしょうか。



<肺と呼吸の関係>
添付した「肺と呼吸の関係」という図をご覧くださ
い。まず、この図の読み方を説明します。


※図をクリックで拡大。
lung&breath_l.jpg

「F」と書いてある一番上のラインは、息をめいっ
ぱい吸った、つまり肺が満タンな状態です。一番下
の「E」ラインは肺の中に空気がないからっぽの状
態です。したがって、FからEまでに収容できる空
気の総量が「A全肺気量」ということになります。

人間は肺の空気を全部出し切ることはできません。
どんなに吐いてもかならず肺の中には空気が残りま
す。これを「C残気量」といいます。ですから息を
吐き切った状態が「L」で示したラインということ
になります。FからLまでのことを「B肺活量」と
呼びます。

さて、まん中あたりにある「N」のラインに注目し
てください。これは肺内部の気圧が外気とほぼ同等
のとき、つまり吸っても吐いてもいないニュートラ
ルな状態のときです。

ここから少し吸っては吐き、また吸っては吐くとい
う浅い空気の出し入れをくり返すのが、ふだんの、
つまり安静時の呼吸です。図中には「D安静時の呼
吸で使う領域」として示してあります。

Nから息を吸った領域を「P満息域」、Nから吐い
た領域を「Q空息域」と呼ぶことにしましょう。



<深呼吸はおもに満息域で行なわれる>
ふつうに「さあ深呼吸しましょう」と言われたら、
私たちはまず大きく息を吸うことが多いでしょう。
つまり図中P満息域の「(1)P吸」をやり、その後
「(2)P呼」に移るわけです。

このとき「どこまで吐くか」には、個人差がありま
す。深呼吸ですから、N点は越えるケースが多いで
しょうけれども、比較的浅いところで吐き終えて、
ふたたび吸気へ折り返すと考えられます。

なぜなら、Q空息域において吐くためには、安静時
にはない特別な身体の使い方をしなくてはならない
からです。人間にとって吐きが難しいというのは、
じつは空息域でのことなのです。



<ふだんは満息域だけ使っている>
図をよく見ると、安静呼吸は満息域側で行なわれて
いることがわかります。つまり、Nから少しだけ吸
い、それを吐いてNあたりに戻す。このくり返しが
安静時の呼吸です。

また先に見たように、いわゆる深呼吸のときも、お
もに満息域が使われていました。つまり、自然にま
かせて呼吸しているかぎり、私たちは満息域ばかり
使う傾向が強いのです。

ところで満息域において意識的努力が必要なのは、
たしかに「吸い」のほうです。呼吸筋に入力して吸
気を行ない、力を抜くことで筋肉の復元力を使って
息を吐く。「(1)P吸」は努力吸気であり、「(2)P
呼」は復元呼気というわけです。

もし満息域だけを呼吸と考えるなら、「吸うほうが
吐くより難しい」という感想を持ってもふしぎでは
ありません。吸うときには意識的努力が必要で、吐
くときはそれを解除するだけでよいからです。

逆にいうと、「吸うほうが難しい」と感じている人
は、空息域での呼吸をあまりしたことがない、ある
いはそれを意識したことがないのかもしれません。



<空息域では吐き方が違う>
空息域においては、吸いと吐きの「努力感」が逆転
します。つまり、吐くことに筋入力が必要で、それ
をゆるめることで息が入るのです。

「(3)Q呼」は努力呼気であり、「(4)Q吸」は復元
吸気となるので、空息域においてはあきらかに呼気
(吐く息)のほうに意識的努力が必要です。

もう一度、図で確認しておきましょう。

P満息域の吸い=(1)P吸→ 努力感をともなう
P満息域の吐き=(2)P呼→ 復元力にまかせる
Q空息域の吐き=(3)Q呼→ 努力感をともなう
Q空息域の吸い=(4)Q吸→ 復元力にまかせる

同じ「吐き」でも、満息域はラクチンで、空息域で
はシンドイことがわかります。

また、空息域はふだんほとんど使っていないので、
「(3)Q呼」は、多くの人にとって特に難しいと考
えるべきでしょう。



<問題は吐くときに起きている>
管楽器は吐いているときにしか音が鳴りません。も
し管楽器奏法に問題があるとすれば、それらの問題
は、かならず「息を吐いているとき」に生じている
はずです。

したがって問題解決のためには、吸うことよりも吐
くことに注目したほうがよさそうです。もう一度、
図を見てみましょう。

「(2)P呼」の間は呼吸筋の復元力を使えるので、
比較的楽に吐けます。しかし、N点を越えて「(3)
Q呼」になると、吐くのがぐっと苦しくなります。

これを解決するには、二つの方法があります。ひと
つは消極的な方法です。それは満息域の吸気、つま
り「(1)P吸」の能力を高めるというやり方です。
いわゆる「もっと吸いなさい」という練習ですね。

どうしてこれが消極的かというと、「(1)P吸」の
能力を上げることで、「(2)P呼」の復元呼気の量
を増やす(あるいは時間を延ばす)だけであって、
問題の本質である「(3)Q呼」の力不足は解決しな
いからです。

本当の問題は空息域の呼気で起きているはずですか
ら、これを「積極的に」解決するためには「(3)Q
呼」そのものにアプローチする必要があるのです。



<からっぽで吐く>
では、「(3)Q呼」そのものを開発するにはどうす
ればよいのでしょうか。

以前、洗足学園大学ジャズコースでトロンボーン奏
者のブルース・ポールソン氏が紹介してくれた方法
がひとつの参考になります。

1.まず、楽器で簡単なスケールを吹きます。このと
 き自分の音色をよく聞いて覚えておきます。
2.つぎにマウスピースをはずし、管に向かって思い
 きり息を吹き込みます。このとき口は管にはつけ
 ません。5回、10回と、息を吸っては激しく吹き
 込むことを繰り返します。この間、約1〜2分。
3.ふたたびマウスピースを装着して、同じスケール
 を吹きます。同じアンブシュア、同じタンギング
 で吹いても、音色、音量とも、さきほどとはまる
 で違っていることに気づくでしょう。

これは「意識的に強く吐く」ことで、息を吐くため
の筋肉群を活性化する方法です。

このような「(3)Q呼」開発法を計画的にふだんの練
習へ取り入れるための教材があります。「ハイ・エ
ア・ビルド
」という金管教則本です。

ハイ・エア・ビルドでは、中低音から超低音のペダ
ルトーンを使って、音符を吹き伸ばし、息がなくな
りかけたらクレシェンドをかけ、音が出なくなって
からさらに3秒間吹き続けるという練習をたくさんや
ります。徹底的に吐き切るトレーニングを重ねるこ
とによって、空息域で息を吐くための筋肉群を育て
るわけです。

また、楽器を使わないでやる練習法として「ヨゴヨ
ゴ」「MOT」「はっぴーひーふ」などの呼吸法を
開発しています(上記リンク参照)。

このような「吐き切る」練習をするのは、管楽器奏
者にとって、もっとも効率的で効果的な呼吸トレー
ニングだと考えられます。ふだんはあまり使わない
空息域の呼気「(3)Q呼」をダイレクトに鍛えること
ができるからです。



<吸う練習はしなくてよいか>
もちろん満息域もどんどん開発すべきであり、吸う
練習も必要だと考えます。また、満息域の呼気「(2)
P呼」はラクチンと先に述べましたけれども、楽器
を演奏する場合はもう少し事情が複雑になってきま
す。このあたりについても機会をあらためて解説す
ることにしましょう。




***





吸うはやすく、吐くはかたし。

<横隔膜は吐くことに使えない>
安静時の吸気運動(吸う)は、
主に横隔膜と外肋間筋によって
行なわれます。
呼気運動(吐く)は、
吸息運動で拡張された肺,胸郭,腹壁の
弾力性による復元で行なわれます。

運動時の吸気運動では,
横隔膜、外肋間筋に加えて、
胸鎖乳突筋,小胸筋などが動員されます。
呼気運動では、 
腹直筋、内肋間筋、胸横筋、下後鋸筋、
方形筋、腰腸筋などが動員されます。

筋肉の名前がたくさん出てきて難しく
見えますが、ポイントはひとつ。

呼吸法でなにかと話題に出る横隔膜は、
吸うための筋肉(吸気筋)であって、
吐くこと(呼気)には使えない
ということです。

人体には、横隔膜という吸気専門の
強い筋肉がありますけれども、
それに相当する呼気専門の筋肉は
ありません。

そこで、昔から、
「吸うはやすく、吐くはかたし」
と言われてきたのです。


<吐くためのくふう>
仕事が続くとストレスがたまり、うまく吐けない。
そこで「息抜き」が必要になります。

田植え、稲刈り、舟曵き、木こりなどにおいて
「仕事の唄」が伝えられてきたのも、
息をうまく吐くためのくふうだと言われます。

女性が男性よりも元気なのは、
井戸端会議でたくさん話す、
つまり息を吐くからだとか。

カラオケでストレス解消となるのも、
息を吐くから。

詩吟の詠唱や、お坊さんの読経も、
息を吐き続けるという意味で
健康法の側面を持っているようです。

2006年のサッカー・ワールドカップで、
初出場ながら決勝トーナメントへ進んだ
ガーナ代表は、試合前にみんなでゴスペルを
歌うそうです。時には30分以上も歌い続けることが
あり、そうするとことで「神に近い存在」になれる
とか。これも、上手に息を吐くくふうですね。

笑うことも、たくさん息を吐くという意味で
人体によい影響を与えると考えられます。

【参考】
1.新生理学<Qシリーズ> Q111 呼吸運動を担う筋肉
 著:竹内昭博 (日本医事新報)
2.海・呼吸・古代形象--生命記憶と回想
 著:三木成夫(うぶすな書院)



***





中低音でハイノートの練習を

監修:杉山 正



ハイノートが出ない段階では、どのように高音域
の練習をすればよいのか?

タングマジック(TM)では明快な回答を用意しています。

たとえば下に掲げた譜例を見てください。
ローC(実音Bb)からG(同F)へのスラーです。
※ト音はinBb、ヘ音はinCで記譜してあります。以下実音表記省略。
569497400_243.jpg

じつはこの音域でハイノートの練習はできるのです。ポイントはふたつ。

1.Cを吹くとき頭で「ア」を思い、
 Gへ上がるとき「イ」を思う。
 そのとき舌が動くのを感じてください。

2.頭で「イ」を思いながらGを吹くとき、
 息を強く入れます。これをキックと呼びます。

a.jpg

信じられないかもしれませんが、このエクササイズ
を毎日何百回も繰り返せば、バテなくなり、音域が
広がり、シェイクやトリルが楽になるのを感じるこ
とでしょう。

この単純な練習にTMの本質がすべて凝縮されている
と言えるのです。

金管演奏において唇(アパチュア、アンブシュア、
チョップスなど)は脇役
であり、タングとエアこそ
が主役である。ハイ・エア・ビルドでは、この理論
についてくわしく解説しています。

註1:ビーエルティー(BLT)は Back of Lower
   Teeth の略。下の歯の裏側という意味です。
   演奏中、舌先はつねにビーエルティーに
   添えておきます。
註2:アイコ(AICO)は Air Controller の略。


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ペダルでハイノートの練習を

監修:杉山 正



金管楽器でふつうには出せない超低音域のことを
ペダルトーンといいます。トランペットでは五線
下のF(実音Eb)から下の音域です。

572550554_237.jpg
※ト音はinBb、ヘ音はinCで記譜してあります。

このペダルトーンを練習することでハイノートの
練習になるという話はよく耳にしますが、それが
どうしてだかはあまり伝わっていないようです。
そもそも「正しい」ペダルトーンがどのようなも
のか自体よく知られていないのかもしれません。

ペダルがハイノートの練習となるメカニズムは、
金管楽器は「タングとエアで」演奏されているこ
とを前提にしないと理解できないでしょう。それ
は「中低音でハイノートの練習を 」で解説したメ
カニズムとまったく同じだからです。

ペダル音域では口腔容積を大きくし、そこへ強い
息を吹き込む必要があります(これをローキック
という)。この裏返しで、口腔容積を狭くして強
い息を吹き込む(ハイキック)のがハイノートの
演奏方法です。

ここから「間違ったペダルトーン」というものも
明らかになってきます。「口腔容積が大きくなら
ない」「ローキックしない」で出すペダルがそれ
です。そのような「バズで音程をとるペダル」つ
まり「唇で調節するペダル」は、ハイノートの練
習にならないばかりか、逆に害をもたらす可能性
があると考えられます。

ハイ・エア・ビルドにおいては、ペダルトーンの
説明にもかなりのボリュームをさきました。正し
いペダルと間違ったペダルの対比や、ペダルの段
階的練習法などくわしく説明してあります。


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【監修者プロフィール】杉山 正(すぎやままさし)

【筆者プロフィール】黒坂洋介(くろさかようすけ)