ハイノート講座



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初出:KOBEjazz.jp
著者:水行末(すいぎょうまつ)



【ハイノート講座インデクス】
第一回【きっかけはファーガソン】
第二回【唇から舌へ】
第三回【唇は疲れない】
第四回【なぜ舌は忘れられたか - 1】
第五回【なぜ舌は忘れられたか - 2】
番外コラム【タングマジックは唯一の正解か】
第六回【音域5オクターブへの道】
第七回【リップフォー】
第八回【ビーエルティーとアイコ】
第九回【相対シラブルと感動舌】
第十回【外垂芯吊No.1】
 外柔芯剛 /外垂芯吊
第十一回【外垂芯吊No.2】
 マジックコインチャイルドタイムショルダリング
第十二回【外垂芯吊No.3】
 フィッシュスイム
第十三回【外垂芯吊No.4】
 三節直列ボトミング
第十四回【アップドラフト】
 12321MOTアップドラフト
 ハイキックはっぴーひーふ
第十五回(最終回)【タブー4】
 ローキックタブー4



【はじめに:タングマジックのしくみ】
「ダブルハイCを楽々出そう!」を合言葉に、全国へ
広がるハイノート講座タングマジック。ダブルハイC
はチューニングで使う「ド」の2オクターブ上の実音Bb
です。タングマジックは「舌を鍛える」ことを中心課
題にしており、なるべく唇の意識を消すことを推奨し
ています。舌を使う練習法はこれまであまり知られて
いないため、理解されにくい面もあるようです。本連
載では、タングマジックの入門編として、その背景や
トレーニングを、エッセイ風にやさしく解説します。





第一回【きっかけはファーガソン】

<アメリカのよい先生なら>
ハイノートといえば、まっさきに思い出されるのがメ
イナード・ファーガソン(以下MF)でしょう。じつは、
タングマジック誕生にはMFの存在が大きくかかわって
います。

1970年代半ば、MFオーケストラの日本公演に際して、
新宿でMFによるクリニック(楽器指導)が開催されま
した。そこに出席していたのがトランペット奏者をめ
ざしていた若き日の杉山正氏でした。

杉山青年はクリニックでMFに質問しました。「アメリ
カでよい先生は誰ですか?」と聞くと、MFは「クラウ
ド・ゴードン」と答えました。そしてスタン・マーク
を指差し「私のバンドのリードトランペット奏者スタ
ン・マークがクラウドの弟子だ」と加えました。その
メイナードの一言が、杉山氏の背中をドンと押してく
れたとか。

その後、渡米した杉山青年はゴードンのもとで17年間
にわたって修行を積み、プレイヤーとしてまた指導者
として、その正式な継承者となりました。



<呼吸法の世界へ>
一方水行末は、音楽プロモーターとして1991年、1992
年、1994年の3回、MFバンドのツアーに同行していま
す。北海道江差公演のとき、本番前の食事で、水行末
はMFの向かいの席にいました。テーブルごしに私の目
を見て、MFは静かにこう言いました。「地球上の95%
の人は正しい呼吸をしていないんだよ」と。

このことがきっかけで呼吸法に興味を持った水行末は、
気功、ヨーガ、武術などの世界へ足を踏み入れること
になりました。



<そしてタングマジック>
2006年9月、水行末はMFとの4度目のツアーを計画して
いました。長野県菅平高原において「グレートハンズ・
ジャズキャンプ・イン菅平」というMFバンドを講師と
したキャンプを企画し、アドバイザーには杉山氏を依
頼していました。

しかしご存知の通り、MFは2006年8月末、来日を3週間
後にひかえて帰らぬ人となり、菅平も幻のキャンプと
なってしまいました。

MFは、杉山氏をゴードンにめぐりあわせ、水行末を呼
吸法の世界へ招いてくれました。その二人がこうして
タングマジックという講座を開いていることに、不思
議な運命のめぐりあわせを感じています。

つづく。





第二回【唇から舌へ】

<シェイクはなぜ難しいか>
リップトリルやシェイクに苦手意識を持つ人は少なく
ありません。これらの技法はどうして難しいのでしょ
うか? 

あっさり結論を言ってしまうと、

 唇でやろうとしているから

だと考えられます。

え? 唇でやるから「リップトリル」と言うんじゃな
いんですか?

おそらくこの「リップトリル」という呼称が多くの人
を苦しめてきたのではないかと思います。シェイクや
リップトリルは本当に「唇で」やるものでしょうか?



<呼び方を換えてみよう>
リップトリル、リップスラー、リップフレキシビリティ
など、「リップ」とつく用語について、すべて「タン
グ」と置き換えてみると、まったく新しい世界が開け
てきます。タングトリル、タングスラー、そしてタン
グフレキシビリティです。

金管楽器演奏において「音程」「音量」「音色」「アー
ティキュレーション」のコントロールに 大きな役割
を果たしているのは、唇よりもむしろ舌であることが
忘れられてきました。リップではなくタングが仕事を
するのだと考え方を変更すれば、ずっと楽に演奏でき
るのです。



<唇から舌へ意識を移動しよう>
これまで圧倒的多数の金管奏者がアンブシュアやチョッ
プスなど「唇周辺」に重点を置いて練習を積んできた
と思われます。「舌」よりも「唇」を意識する比率が
何十倍も高いのです。

ところが、「唇」から「舌」へ関心を移すだけで、今
まで難しかったことが、意外と楽にできる。ハイノー
トもそうですし、シェイクやトリルもそうです。

いったん唇のことを忘れて、全神経を舌に集中してみ
てください。舌以外のことを考えない。そして舌を鍛
えるエクササイズに取り組みます。バズィングやロン
グトーンといった、唇周辺の意識を高める練習のかわ
りに、舌を積極的に動かすタングスラー系の練習を中
心にすえるのですね。

あるホルン奏者から相談を受けたことがあります。長
年ホルンを吹いているけれど、リップトリルが苦手な
ので教えてほしい、と。そこで私は短いメールで要点
だけを伝えました。

 1.舌先をどこに置くか。
 2.舌のどの部分を動かすか。
 3.下の音はア、上の音はイのシラブルで。
 4.スラーでやること。

意識を唇から舌へ移すのがうまくいったのでしょう。
このホルン奏者は、長年の課題だったトリルを、ものの
5分で習得したのでした。


つづく。




第三回【唇は疲れない】

<舌と呼吸で新境地>
Serendipity 18(以下S18)というビッグバンドがあり
ます。ふだんは Bob Florence の高度で難解な音楽に
取り組むプロミュージシャンの集まりですが、ときに
ゲストとの共演ライブも行ないます。

これまでEric Marienthal(as)、Bob Sheppard(ts)、
Bill Watrous(tb)、Chuck Findley(tp)などをゲスト
に迎えて演奏しました。

タングマジック講師の杉山正氏は、S18のリードトラン
ペット奏者でもあります。杉山氏によれば、ビッグバ
ンドでリードを担当して何曲吹いても、唇が疲れると
いうことは皆無だそうです。

たしかに長く演奏すれば身体は疲れるけれども、唇は
バテない。それは、杉山氏がトランペットを演奏する
ときに使っているのが、唇ではなくおもに舌であるこ
とを証明しているでしょう。

また、杉山氏は立教池袋中高等学校の吹奏楽部(本格
的なジャズも演奏します)の指導も手がけられていま
す。合宿で長時間にわたって毎日練習しても、立教の
ブラスがバテることはまずないそうです。立教は長く
杉山氏の指導を受けていますので、金管の生徒はみな
「舌で」演奏することを求められます。唇への負担を
なくし、舌と呼吸で演奏する。そのことがブラスセク
ションの耐久力を支えていると思われます。



<ある仮説>
次回にくわしく述べますが、ひとつの仮説をご紹介し
ます。この100年間、先進国では身体の深部をあまり使
わなくなり、視覚情報を偏重するようになった。その
ため舌よりも外側にある唇のほうに関心が高まったと
いうものです。その結果、かつては当然のように重視
されていた舌のトレーニングが、現代では「失われた
練習法」になってしまったのではないか。

タングマジック講習会参加者の多くが「今まで舌のこ
となど考えたこともなかった」とおっしゃいます。舌
が重要だと知っていても、どのように練習すればよい
のかわからなかったという方もおられます。そのよう
な指導をする人も教則本もほとんどなかったからです。



<メインステージは口の中>
現在、金管奏者の多くは「唇およびその周辺」に濃い
意識が形成されており、日々の練習によってその「唇
の意識」をさらに高めていると考えられます。しかし
タングマジックでは、金管演奏の主舞台は唇ではなく
「口の中」だとしています。意識を口の「外から中へ」
移すことによって、

1.音域が伸びる
2.耐久力がつく
3.音色がよくなる
4.楽に演奏できる

などの報告が、受講者から続々とあがってきています。
ステージは「口の中」、主演俳優は「舌」。多くの奏
者を苦しみから解放しつつあるこのドラマは、序幕が
始まったばかりです◎

つづく。





第四回【なぜ舌は忘れられたか - 1】

<失われた練習法>
19世紀末から20世紀初頭、ダブルペダルCからダブル
ハイC(いずれも実音Bb)の5オクターブを軽々と吹
きこなす金管奏者がたくさんいたとか。そして、彼ら
が鍛えたのは唇ではなく「舌」だといいます。

しかし現代の金管教育において、舌の重要性を説く人
は少数派のようです。圧倒的多数の奏者や教育者はア
ンブシュア、アパチュア、チョップスなど唇周辺への
関心が高いのではないでしょうか。

舌を中心としたトレーニング方法は、なぜ失われてし
まったのか? あくまでも仮説であるとお断りしたう
えで、その原因を二つのキーワードにしぼって考えま
した。「1.歩き」「2.テレビ」という二つです。



<歩かない現代人>
20世紀に衰退した身体文化の代表が「長距離歩行」だ
と、齋藤孝明治大学教授は指摘します(身体感覚を取
り戻す
ーより)。明治・大正期の日本人は、一時間程
度歩くことは日常であり、小学生が何キロも歩いて学
校に通うのも珍しくなかったといいます。

江戸時代はさらに歩いていました。幕末の志士は、す
ぐれた人物と会って学ぶために、驚異的な距離を歩く
ほかなかったのです。坂本龍馬が江戸へ来るとき、土
佐から山越えして、京経由で江戸まで歩いたといいま
す。庶民でも一日に30〜40km歩くことを、特別だと
は思わなかったようです。

話は「歩く/歩かない」という問題にとどまりません。
生活全般が便利になったため、現代人は洋の東西を問
わず、昔日の人類に比べ身体が衰えているという研究
もあります。

 ※チャンピオンスポーツにおいて世界新記録
  を更新し続けている事実と矛盾するように
  感じる方がおられるかもしれません。これ
  については別の角度から検証が必要です。
  また機会をあらためて。



<末端へ意識が移動する>
電気もガスも水道もなく、なにもかも手作業でこなし、
毎日長距離を歩いていた時代の人間は、身体をフルに
使うほかありませんでした。中心から末端まで身体を
すみずみまで使いこなしていたと考えられます。

逆に、便利な機器にかこまれた現代人は、身体を使い
こなす必要がない。手先や指先だけでものごとを片付
けることができるからです。

そういう生活を続けていると、身体内部はどんどん使
われなくなり、手先、指先、口先などの意識が濃くな
る。身体の末端ばかり使っているため、身体中心の感
覚は鈍くなってきます。

つづく。





第五回【なぜ舌は忘れられたか - 2】

<フォーム学習>
舌のトレーニングが失われた原因と考えられる第二の
キーワードは「テレビ」です。テレビのスポーツ解説
は、野球でもゴルフでもフォームについて語られるこ
とが多いですね。バットの位置がどうとか、腕の角度
がどうとか。

しかし、フォームは身体運動の「結果」であって、そ
のフォームを成立させている原因、それは身体深部の
使い方や意識の置き方のことですが、そういう「原因」
があるはずです。

「結果」は見えやすく、「原因」は見えにくいため、
テレビのようなビジュアル重視のメディアにおいては、
どうしてもフォームそれ自体で説明をすませてしまお
うという偏りが生まれます。フォームを重視する解説
者が重用され、発言の機会が増える。それを見た視聴
者もまた、フォーム信仰の信者として啓蒙(洗脳?)
されていきます。

ここではテレビについて述べましたが、同様のことは
他のメディアでも起きています。コンピュータゲーム、
インターネットはいうおよばず、雑誌、新聞、書籍な
ど紙媒体においても、視覚情報を重視する傾向は加速
しているといえるでしょう。



<かくて道は唇へ通ず>
便利な生活で身体深部の感覚が鈍り、視覚情報を偏重
するようになった現代人にとって、舌よりも唇のほう
が、「見えやすく」「感じやすく」「理解しやすい」
対象となったのではないでしょうか。逆に、舌は「見
えにくく」「感じにくく」「理解しにくい」ため、関
心を向けなくなった。

舌を重視したプレイヤーが活躍したのはわずか100年ほ
ど前のことです。たとえばこの演奏をお聞きください。
Del Staigers(1899-1950)による
"Carnival of Venice(ベニスの謝肉祭)"です。

この100年間で、現代社会の関心は身体の内部から外部
へ移り、それと歩調を合わせるように、金管奏者もま
た舌から唇へ関心を移したのかもしれません。

タングマジックが「唇から舌へ」の意識移動を推奨し
ていることから、それが特殊な奏法であると考える方
がおられるかもしれません。

しかし、19世紀末から20世紀にかけて、ダブルペダルC
からダブルハイC(いずれも実音Bb)までを自由自在に
吹きこなす金管奏者がたくさん存在しており、かれら
はみな舌のトレーニングに打ち込んだとといいます。
舌の開発は伝統的な練習なのです。

つづく。





番外コラム【タングマジックは唯一の正解か】

<正しい演奏法は一つしかない?>
クラウド・ゴードンに、

 BRASS PLAYING IS NO HARDER
 THAN DEEP BREATHING
 邦題「金管演奏の原理」(訳:杉山 正)

という著書があります。直訳すれば「金管演奏なんて
深呼吸みたいに簡単」という挑発的なタイトルです。

その中におそらく多くのプレイヤーにとって承服しがた
い一節があるので、原文と和訳を続けて引用します。

 Every great player uses these elements
 correctly and every one of these players
 does it exactly the same, whether he
 knows it or not. Regardless of what they
 look like, which way the horn points,
 etc., what happens inside is exactly the
 same on all good players. There is only
 one correct way to play - not many ways,
 as some suppose.

 全ての偉大な演奏家達は、彼らがそれを意識
 していたかどうかは別として、このような原
 理を正しく用いたし、また彼らは全く同じよ
 うな奏法で演奏したのだった。外見上はどの
 ように見えようと、また楽器がどちらの方向
 を向いていようと、またその他のことでいろ
 いろ違いがあろうと、全ての良い演奏家の内
 部で起こっていることは、正確に同一なので
 ある。正しく演奏する方法は、一つしかない
 のであって、一部の人達が考えているように
 沢山の方法があるのではないのである。



<方法というより原理>
クラウド・ゴードン特有の断定的な表現です。ゴード
ンは「way(方法)」という言葉を、ここではやや広
い意味に使っていると考えれば、私たちにも納得しや
すいでしょう。というのは、彼はこの部分の直前で、
以下のように語っているのです。

 The natural forces that govern the
 universe never change.(中略)The fact
 that these forces are stable, enables
 man to learn and put them to use.

 大宇宙を支配している自然の力というもの
 は、何時何処にあっても不変のものなのであ
 る。このように自然の力の原理が不変である
 という事実が、人が学び、また学んだことを
 利用することを可能にするのである。

つまりゴードンの主意は、この「自然の力」に逆らっ
た「方法」はすべて間違いであるし、名人はみな「自
然の力」を味方につけて楽々と演奏していたのだよ、
ということになります。

つづく。





第六回【音域5オクターブへの道】

<本気の人だけが手にする教則本>
ハイ・エア・ビルド(以下HAB)は、フレックス・タン
グ・ビルド(同FTB)の続編にあたるものです。

FTBは合理的な金管奏法の基本となる舌(タング)を開
発するためのエクササイズ集でした。HABは、FTBで獲
得した強靭で柔軟な舌を使って、ダブルペダルC(実
音Bb)からダブルハイC(同)まで5オクターブの音
域を開発するための教材です。

したがって、FTBとHABはタングマジック(TM)を支え
る車の両輪であるといえます。二つの教則本はお互い
に補い合うような内容になっていますので、毎日の練
習においてFTBとHABを併用するのが理想です。

HABはけっして安価な教則本ではありません。そこには
金管演奏の最重要情報がおしみなく公開されているか
らです。それは本気で上達をめざす人だけに役立つ情
報ですので、中途半端な気持ちで手にとることはお勧
めしません。



<理論編ではTMの全体像を解説>
HABの「理論編」では、TM講習会の内容を16項目のポイ
ントに整理して、可能な限りくわしく再現しています。
それらのポイントは4項目ずつ4つに分類されています。

●リップフォー(唇についての四項目)
 1.ウエット(WET)
 2.上振下支(じょうしんかし)
 3.パッカー(PUCKER)
 4.【最重要】フォゲット(FORGET)

●タングフォー(舌についての四項目)
 1.ビーエルティー(BLT)
 2.アイコ(AICO)
 3.相対シラブル「愛」「絵」
 4.感動舌(かんどうぜつ)

●エアフォー(呼吸についての四項目)
 1.外垂芯吊(がいすい・しんちょう)
 2.アップドラフト
 3.ハイキック
 4.ローキック

●タブーフォー(注意すべき四項目)
 1.禁断シラブル「魚」
 2.無駄なロングトーン
 3.危険なバズィング
 4.アンバランスな体系



<実践編はレンジ・スタディ>
実践編は18のエクササイズからなります。それぞれ前
半が低音域開発(ローレンジ・スタディ)、後半が高
音域開発(ハイレンジ・スタディ)。FTBによって舌
の開発に取り組む人だけが挑戦できる「5オクターブ
の世界」です。

さあ「タング」と「エア」によってサウンドを作り出
す金管演奏の伝統的な練習方法が、いよいよその全容
を明らかにします。

つづく。





第七回【リップフォー】


<金管演奏16のマジック>
2007年10月に発刊された新しい教則本「ハイ・エア・
ビルド 〜音域5オクターブの開発〜」では、金管演
奏のポイントをTM4X4(てぃーえむ・ふぉー・ばい・
ふぉー)という4分野16項目に整理して説明していま
す。今回はそのうち「リップフォー(唇についての4項
目)」について解説します。



<唇についての4項目>
1.ウエット(WET)
2.上振下支(じょうしんかし)
3.パッカー(PUCKER)
4.【最重要】フォゲット(FORGET)


リップフォーの第一はウエットです。唇はつねにウェッ
トな(湿った)状態にしておきます。人体の粘膜部分
は生命現象が活発に行なわれており、その前提として
組織が十分に潤っている必要があります。唇もまた、
ウエットな状態のときにもっとも機能すると考えられ
ます。

第二の上振下支(じょうしんかし)は、上唇と下唇の
機能分担についてです。金管演奏においては、上唇の
振動がメインで音が作られています。したがって上唇
の自由度を高めることはたいへん重要です。

したがってマウスピースのリムが上唇の振動を制約し
ていないかチェックするとよいでしょう。一方、下唇
でリムを支えることはたいへん有効です。

ひとつの目安として、唇がマウスピースの上から2/3、
下から1/3あたりに位置するようなポジションが基本と
なります。これが「上振下支」です。

第三はパッカー。口を横に引く「スマイル」のアンブ
シュアは、マウスピースと歯の間で唇が薄くなるため、
少し圧がかかっただけで唇を傷める場合があります。

パッカーとは「すぼめる」という意味で、口を少し前
へ突き出すことです。ロウソクの炎を吹き消すような
強く速い息を出すとき、人間は自然に口をすぼめます。

パッカーは身体の使い方としても無理がなく、マウス
ピースと歯の間で唇が厚いクッションのような役割を
果たすので安全な形です。



<唇を忘れる>
リップフォーの第四は、これがもっとも重要なのです
が、唇を忘れること(フォゲット)。

タングマジックは、意識を唇から舌へ移す長く困難な
戦いといっても過言ではありません。ほとんどの金管
奏者は、唇周辺にべっとりと濃い意識がこびりついて
おり、日々の練習を通じて唇の意識をさらに高めよう
としています。

この「唇の意識」をいかに消すか。そして自分の意識
をいかにすみやかに「舌」へ移動できるか。これがタ
ングマジックの成否を握っています。唇に意識が残れ
ば残るほど、舌の開発が遅れる可能性が高いからです。

したがって、もし本気でタングマジックに取り組むの
であれば、唇については「見ざる、言わざる、聞かざ
る」という三猿(さんざる)を徹底する覚悟が必要に
なります。唇を見ない、話題にしない、他人の情報も
聞かないなど、とにかく唇について考えないことを徹
底する。

アンブシュアを鏡でチェックしたり、アパチュアを気
にしたり、唇周辺の口輪筋を鍛えたり、そういう唇の
意識を高める行為は一切禁止することが、結果として
舌を開発する近道となるでしょう。

特にいけないのが「舌も鍛える、唇も鍛える」という
(一見バランスのよさそうな)練習方針です。これは
もう、タングマジックとはまったく異なる内容になっ
てしまいます。

舌の鍛錬と唇の鍛錬は、相互にアクセルとブレーキの
関係になるので、積み上げては崩し、積み上げては崩
しを繰り返すことになりかねません。このような練習
をすると、タングはけっしてマジックを起こしません
ので十分に注意してください。

唇については「ウエット」「上振下支」「パッカー」
という3つのポイントを軽く確認するにとどめ、つね
に意識を「舌」に置くようにしてください。

つづく。





第八回【ビーエルティーとアイコ】


<タングフォー>
TM4X4(てぃーえむ・ふぉー・ばい・ふぉー)の第二
カテゴリーは「タングフォー(舌についての4項目)」
です。

1.ビーエルティー(BLT)
2.アイコ(AICO)
3.相対シラブル「愛」「絵」
4.感動舌(かんどうぜつ)

このうち今回は「ビーエルティー」と「アイコ」につ
いて説明しましょう。



<ビーエルティー>
BLTといえば、ふつうは「ベーコン、レタス、トマト」
をはさんだサンドイッチの略称として使われますね。
TM の場合は、Back of Lower Teeth の頭文字。「下の
歯の裏側」という意味です。

ところで、みなさんはどのようなタンギングをしてい
ますか? 舌先に置いたスイカの種を吹き飛ばすよう
なとか、舌先で上の歯の裏側を突くような、あるいは
舌先で上アゴを叩くようななど、いろんな指導を受け
たことがあるのではないでしょうか。

TMでは舌を前から奥まで4つのパートに分けて名前をつ
けています。

1.舌先:舌の先端部分
2.前舌:舌の少し奥に入った部分(口内の真ん
 中よりは先端寄りにある)
3.アイコ:さらに舌の奥の部分(口内のちょうど真ん
 中あたり)
4.舌根:舌の一番奥の部分(のどのあたり)


08-1.jpg
舌の構造 - ハイ・エア・ビルドより


まず、原則として舌先はつねにビーエルティー(BLT)
につけておきます。舌の運動を支える役割を持つのが
舌先です。そして、タンギングは基本的に前舌で行な
います。つまり舌先ではタンギングしないのです。



<アイコ>
アイコは Air Controller の頭文字。舌の中ほどあた
りのことをいいます。この部分が口の中で上下するこ
とによって空気の流れをコントロールします。

舌根がのどを絞めないように注意してください。空気
をコントロールするのは舌根ではなくアイコです。

ここまでを整理すると、舌先はつねにビーエルティー
にセットしておき、アイコを上下に動かすことで空気
の流れをコントロールし音程や音量の調節を行なう。
そして前舌が上アゴを叩くことでタンギングします。

舌先をビーエルティーにセットしたままではタンギン
グできないと思う人もおられるでしょうが、すぐに慣
れます。逆にビーエルティーを基本ポジションにした
ほうが、タンギングは速く確実になると気づかれるで
しょう。

またビーエルティーが本当に機能し始めると、アイコ
の動きもしっかりと力強いものになり、金管楽器を
「舌で演奏する」という実感が湧いてくるはずです。

舌先をビーエルティーに置くことについてふれている
教則本は、これまでほとんどありませんでした。しか
し、タングがマジック(魔法)を起こす秘密は、じつ
はビーエルティーにあったのです。

つづく。





第九回【相対シラブルと感動舌】


<相対シラブル>
TM4X4の第二カテゴリー「タングフォー」のうち、今
回は「相対シラブル」と「感動舌」について説明しま
しょう。

TMでよく使うシラブルは「ア」と「イ」です。覚えや
すいように「愛」の字をあてています。フレーズ中の
相対的に低い音は「ア」、相対的に高い音は「イ」の
シラブルを使います。

 【註:音名および記譜について】
 以下本文中の音名は、イタリア語(ドレミ...)
 も英語(CDE...)も、トランペットの記譜(ト
 音inBb)を基本としています。ドイツ語表記は
 一切使っていません。

たとえば五線下のドから五線中のソへ以降するとき、
頭の中で「ド→ソ」と考えて吹くのではなく、「ア→
イ」と考えます。こうすることでアイコが自動的に動
かす練習をするのです。

特定の音程に特定のシラブルが割り振られているので
はなくて、相対的低音が「ア」、高音が「イ」となる
ので、これを相対シラブルと呼びます。

したがって、五線中のソからその上のドへ上昇する場
合は、相対低音であるソが「ア」、相対高音のドが
「イ」のシラブルになります。

五線下のドから上昇してソ、ド、ミ、ソと移行する場
合は、最低音ドに「ア」、最高音ソに「イ」のシラブ
ルを与え、中間のソ→ド→ミのシラブルは自然にまか
せます。ただ「自然にまかせる」といっても難しいの
で、「エ」のシラブルを使っても構いません。主要シ
ラブルは「愛」、補助シラブルが「絵」です。


 音程   
  ド→ソ→ド→ミ→ソ(と上昇)

 シラブル1
  ア→エ→エ→エ→イ
 シラブル2
  ア→ア→エ→エ→イ
 シラブル3
  ア→ア→エ→イ→イ
 ※シラブル1〜3のどれでもOK。


09-1.jpg
舌の動き「アエイ」 - ハイ・エア・ビルドより



4.感動舌(かんどうぜつ)
「感動・舌」ではなく、「感・動舌」で切ります。
「動く舌」を「感」じること。慣れないうちは演奏中
の舌の動きがよくわからないものです。つねに自分の
舌を観察し、その動きを注意深く感じるようにしてく
ださい。

とかく金管演奏においては「唇」ばかりを意識しがち
ですが、唇はフォゲット(リップフォーの4)。かわ
りに「感動舌」を徹底します。

つづく。





第十回【外垂芯吊No.1】


<エアフォー>
TM4X4(てぃーえむ・ふぉー・ばい・ふぉー)の第三
カテゴリーは「エアフォー(呼吸についての4項目)」
です。

1.外垂芯吊(がいすい・しんちょう)
2.アップドラフト
3.ハイキック
4.ローキック

これから「外垂芯吊」について、何回かに分けて説明
しましょう。




<基本コンセプトは外柔芯剛>
舌に重点を置いた練習法であるTMを根底で支える基本
コンセプトは「外柔芯剛(がいじゅう・しんごう)」
です。これは読んで字のごとく、身体の外側は柔らか
く、身体の芯がしっかりしていること。体表面の筋肉
を可能な限り脱力し、深層筋群(インナーマッスル)
を活性化するのが外柔芯剛です。

スポーツでも武術でもダンスでも、すぐれた身体運動
を行なう人は、体表面の脱力と体芯部の入力のバラン
スがよいといわれます。楽器演奏も同様で、すばらし
い演奏は高度に外柔芯剛が達成された身体上に成立し
ていると考えられるのです。

唇ではなく舌を鍛えるというアイデアも、外を脱力し
芯に入力するという考えの一環です。人間の身体を一
本のチューブとして見た場合、口輪筋は外側であり、
舌は筒の内側であることがおわかりいただけるでしょ
う。




<外が垂れ芯が吊られる>
さて、外柔芯剛のトレーニング(後述)を積むと、体
表面が「垂れる」感覚(これを外垂という)が生まれ、
同時に芯が上から「吊られる」感覚(これが芯吊)も
芽生えてきます。

クラウド・ゴードンが指導した「チェストアップ」が
正しく実践できると、ごく自然に外垂芯吊が達成され
ます。逆にいうなら、外垂芯吊でないとチェストアッ
プもうまくできないという関係があります。

これから、外柔芯剛および外垂芯吊のための「ウォー
ター・トレーニング」について解説していきます。

ウォーター・トレーニングは「水のような身体になる」
ための練習です。なぜ「水のようになる」必要がある
のか。それは自由に動くため。

私たちは日常生活で、身体のいろんなところを固めて、
とても不自由な動きをしています。それをほぐしなが
ら少しでも自由な身体を取り戻そうというわけです。

呼吸も例外ではありません。ほとんどの人は自覚して
いませんが、現代人の呼吸は浅く不自由なものになっ
ています。上手に吸えない、上手に吐けない、つまり
自由にコントロールできない。この状態から脱して、
より自在な呼吸を獲得するために、水のような身体を
作るのです。

つづく。





第十一回【外垂芯吊No.2】




<マジックコイン>
それではウォーター・トレーニングを始めましょう。
まず両足を閉じて直立してください。床の上に1枚の
硬貨が置いてあるとイメージしてください。これを
「マジックコイン」と呼びましょう。

マジックコインを両足で踏みます。踏む位置は両方の
内くるぶしの真下。かなりカカト寄りの位置です。土
踏まずよりは後ろです。

床の上にある想像上のマジックコインに自分の全体重
を預けるように立ちます。かなり不安定な立ち方なの
で、フラフラするかもしれません。全身の力を抜いて、
ゆら〜っとバランスをとってください。

マジックコインの練習は、重心を感知する能力を向上
し、正しい姿勢の基本をつくります。

下記書籍において、この立ち方を図解入りでくわしく
説明しています。Eric Marienthal (as)、Andy Martin
(tb)、Wayne Bergeron(tp)らも推薦する呼吸に
ついてのテキストです。


●呼吸を変えれば音楽は変わる!
重力と筋骨の関係を改善し合奏に生かすブレスエクササイズ
著:黒坂洋介





<チャイルドタイム>
ウォーター・トレーニングで重要なのは「音をたてな
い」ということです。動くとき、可能な限り無音で動
作をしてください。これは全身の筋肉に注意を向けて、
自分のコントロール下に置くための練習でもあります。

そして「のんびり」します。現代人は心身にストレス
を蓄積しているため、くつろごうと思ってもなかなか
心身が休まらない。のんびりできないのです。まずは
自分が「のんびりできないこと」を自覚してください。

考えてみれば、私たちは生活の中でつねに急いでいま
す。だからその「急ぐ心」を止めて、子供の頃のよう
に、次の予定を考えないで、のんびりする練習をする。
これを「チャイルドタイム」と呼んでいます。

チャイルドタイムを練習することで、トレーニングに
ふさわしい心身のモードを開発します。また、長期的
にはリラックスして本番を迎えられる強い精神力を育
てます。




<ショルダリング>
多くの人が自覚しないながらも「力み」を持っている
首から肩の筋肉をほぐし「外垂」の基本をつくる練習
です。

足を閉じてマジックコインに乗り、ゆら〜っとバラン
スをとりながらチャイルドタイムを味わいます。

この状態で肩の上げ下げをやります。これをショルダ
リングといいます。

両肩を真上へ思いっきり持ち上げます。この状態が
「筋力オン」です。これを数秒キープして「筋力オフ」
にします。すると両腕の重みで肩がボトッと落ちます。
 
「降ろす」のではなく「落ちる」感じです。このとき、
口で「ボト〜ッ」と言ってください。無声音で構いま
せん。これも呼吸法の一種ですから、かならず口に出
してください。「ボト〜ッ」です。

ショルダリングを八回繰り返します。

つづく。





第十二回【外垂芯吊No.3】




<フィッシュスイム>
チャイルドタイムで、全身がたら〜りと「垂れた感じ」
を味わいましょう。その「垂れ感」をキープしつつ、
背骨を左右にゆら〜り、ゆらりとゆらします。「背骨」
といっても最初はわかりにくいでしょうから、全身を
左右に振るだけでも結構です。

急がないでください。のんびりと。力まないでくださ
い。重要なのは動きよりも「のんびり」のほうです。
ゆっくりと、いたわるように、ゆら〜り、ゆらり背骨
を左右にゆらす。

このとき自分の背骨をよく感じてみてください。それ
は「一本の棒」ですか? それとも「いくつも節のあ
るもの」のように感じられますか? 言うまでもなく、
背骨はいくつもの小さな骨の集合体です。左右にゆら
せば「棒のように」ではなく、「鎖のように」動きま
す。

魚類が泳ぐとき、背骨を左右に振りながら前進します
ね。この魚の泳ぎをまねて、背骨を左右にゆらすのが
フィッシュスイムです。



<背骨の構造と機能>
人間の背骨は、たくさんの椎骨(ついこつ)が積み重
なってできています。その内部には脊髄という神経の
束が収まっているので、全身をコントロールするうえ
でたいへん重要な器官なのです。

背骨を構成する椎骨は、首の骨(頚椎)が七つ、胸の
骨(胸椎)が十二個、腰の骨(腰椎)が五つです。上
は頭から下はおしりまで、二十四個の骨が連なった
チェーン状の長いもの、それが背骨なのです。



<フィッシュスイムのやり方>
1.まず頚椎からやってみましょう。頭を前へ倒して後
 頭部をさわると、ペコンとしたくぼみがある。その
 奥のほうに第一頚椎があります。
2.そのまま指でつつっと下へなぞると、首の付け根に
 ポコンと飛び出した骨がある。そこが第七頚椎。つ
 まりこの間に七つの骨があるということです。
3.では、第一頚椎からやさしく、やさしく、の〜んび
 りと、左右にに小さく動かしましょう。魚が泳ぐよ
 うに。
4.少しずつ下へ下へと下り、第二頚椎から第三、第四
 ...そして第七頚椎まで、ゆっくりとゆらしていく。
 気分はあくまでものんびりと。
5.こうして頚椎をフィッシュスイムで動かしているう
 ちに、首から肩、肩から腕の筋肉が次第にゆるんで
 きます。首から肩は軽くなり、腕は逆に重く感じら
 れる。
6.胸椎は胸(背中)の部分の背骨。肋骨がそこから生
 えています。十二個の椎骨が連なっています。
7.胸椎は数が多いので、全体を四分割して、胸椎三つ
 分ずつを攻めます。まず第一〜第三胸椎を左右にゆ
 らす。次に第四〜第六を、以下第七〜第九、第十〜
 第十二とブロックごとに意識を移しながらゆらしま
 す。
8.腰椎は五つの大きな椎骨が連なっている。これもひ
 とつずつゆらしていきます。のんび〜りと。

つづく。





第十三回【外垂芯吊No.4】




<三節直列>
ここで三つの「節(せつ)」が登場します。タングマ
ジックの専門用語です。

第一の節は「足節(そくせつ)」。これはマジックコ
インを踏んでいる足裏です。硬貨に足節で乗るように
立つわけです。

二番目の節は「地節(ちせつ)」。これは地球の中心
です。足節から地節までの距離は、約6300kmあります。
地球上のすべての物体は、重力によって地節へ向かっ
て引き寄せられています。

三番目の節は「底節(ていせつ)」。これは会陰(え
いん)にあります。会陰は、哺乳動物の「肛門と生殖
器の間」の部分。このあとブレス・トレーニングでも
使うので、底節の位置をよく確認してください。

これら三つの節が一直線上にくるように、つまり地節
〜足節〜底節が「三節直列」するように立ちます。そ
して三つの節を貫く「芯」が身体に通るのを感じます。

これが外柔芯剛および外垂芯吊の「芯」になるわけで
す。




<ボトミング>
底節(ていせつ)の上げ下げを「ボトミング」といい
ます。これは呼吸と合わせて行ないます。息は鼻から
吸い、口から吐きます。なるべく音を立てないように。

息を吸いながら底節を引き上げ、吐きながら底節を降
ろす。これを「すいあげーはきさげ」といいます。

底節の上げ下げは簡単ではないので、よく練習してく
ださい。底節を上げるのは難しいけれども、降ろすの
もの意外にできないものです。

メトロノームを46に合わせて、一拍目ですいあげ、二
拍目ではきさげ、三拍目ですいあげ、四拍目ではきさ
げ...と、これを八小節やって休憩です。

底節を上げ下げする感覚がわかってきたら、同じ要領
で「すいさげーはきあげ」も練習します。

そして、楽器演奏の状態に一番近い「すいあげーはき
あげ」に取り組みましょう。

ボトミングは体幹部を開発するうえでも、呼吸に上達
するうえでも非常に重要なトレーニングです。短い時
間で構いませんから、かならず毎日練習してください。

つづく。





第十四回【アップドラフト】




<12321>
外垂芯吊の身体ができたら、いよいよブレス・トレー
ニングに移ります。できるだけ外垂芯吊の状態をキー
プしたまま呼吸してください。

最初の呼吸法は「12321(ワンツースリーツーワン)」
です。

1.マジックコインに乗ります。
2.のんびり。けっして力まないこと。
3.鼻から吸って口から吐きます。呼吸のときなるべく
 音を立てないように。
4.底節は下げたままです(すいさげーはきさげ)。
5.メトロノームを46に合わせて、一小節吸って一小節
 吐きます。
6.つづいて二小節吸って二小節吐きます。
7.さらに三小節吸って三小節吐きます。
8.以下、二小節の吸い吐き、一小節の吸い吐きをやっ
 てから呼吸を整えます。
9.吸うときは肺のすみずみにまでしみわたるように、
 吐くときは肺のすみずみからしぼり出すように、て
 いねいに呼吸します。

吸い続ける間および吐き続ける間は、空気の流量およ
び息の速度が一定になるよう心がけてください。

※12321のリードメッセージ音声はこちら





第二の呼吸法は「MOT(モット)」。

かなり強力な呼吸法です。力んでやると逆効果ですの
で、かならずとろ〜んとした質感の身体を作り、外垂
芯吊を確認してから取り組んでください。

1.マジックコインに乗ります。
2.のんびり。けっして力まないこと。
3.鼻から吸って口から吐きます。呼吸のときなるべく
 音を立てないように。
4.底節はずっと上げたままです(すいあげーはきあ
 げ)。
5.軽く「へこまま」を意識してください。けっして力
 まないこと。
6.メトロノームを46に合わせます。
7.まず、息を「三拍で吸い切るつもりで」吸い込んで
 ください。もう肺が一杯になっているはずですけれ
 ども、そこでさらに一拍余分に吸います。
8.そして、「三拍で吐き切るつもりで」吐き出します。
 肺の中は空っぽに近いわけですが、そこからさらに
 一拍吐き出します。
9.これを四回繰り返し、呼吸を整えます。

MOTで大切なのは力まないこと。無理にやると筋肉を傷
めたり、気分が悪くなりますので、注意深くおおらか
な心身で行ないます。吸い続ける間および吐き続ける
間は、空気の流量および息の速度が一定になるよう心
がけてください。




<アップドラフト>
さて、TM4X4(てぃーえむ・ふぉー・ばい・ふぉー)の
第三カテゴリー「エアフォー(呼吸についての4項目)」
のうち「アップドラフト」について説明しましょう。

外垂芯吊が感じられ「肩を落として」息が吸えるよう
になったら、その姿勢を維持したまま息を吐きます。
ボトミングは「すいあげーはきあげ」です。

このとき肋骨周辺の筋肉をしぼってエアを押し出すの
ですが、胸郭は逆にふくらむような感覚があるはずで
す。これは腹腰部から上向きに支える圧力が加わるこ
とで生じる現象です。

体幹部全体では、底節→腹腰部→胸郭→口の中へと、
まるで上昇気流(アップドラフト)が吹き抜けるよう
な、下から上への強い圧を感じます。このアップドラ
フトを育てるのが、ボトミングでありMOTなのです。

「すいあげーはきあげ」で行なうMOTは、腹腰部の支
える力、肋骨周辺の筋肉をしぼる力を効率よく身につ
けるトレーニングです。




<ハイキック>
たとえば五線の下のドから五線中のソへ上昇するとき、
「ア→イ」というシラブルでアイコを動かします。

569497400_243.jpg

a.jpgのサムネール画像

「イ」のシラブルを使ったとき、口の中は狭くなって
いるのでエアが通りにくい。そこでこのとき少し強め
にエアを入れます。これを「キック」と呼びます。低
い音よりも高い音を強めにキックして吹くようにする
のが「ハイキック」です。

このハイキックを苦手とする人が少なくないようです。
上記の「ド→ソ」という動きの場合、下の音(ド)を
p、上の音(ソ)をfで吹くこと でハイキックは成立
します。しかし、音量が逆になるケースが思いのほか
多いのです。




<はっぴーひーふ>
これを手軽に解決するひとつの試みとして、楽器を使
わずにできる呼吸法を試作しました。名付けて

 ハPヒF

「はっぴーひーふ」と読みます。まず、音量pでやさ
しく

 ハー

と二拍伸ばす。続いて音量fで力強く

 ヒー

と二拍。どちらも無声音でやります。

(pで)ハー (fで)ヒー
(pで)ハー (fで)ヒー
(pで)ハー (fで)ヒー
(pで)ハー (fで)ヒー

これを何度も何度もくり返すのが「はっぴーひーふ」
です。楽器を持たないときによく練習して、ハイキッ
クに慣れておくわけです。

ボトミングは「すいあげーはきあげ」でやるとなお効
果的でしょう。

つづく。





第十五回(最終回)【タブー4】




<ローキック>
TM4X4(てぃーえむ・ふぉー・ばい・ふぉー)の第三カ
テゴリー「エアフォー(呼吸についての4項目)」のう
ち「ローキック」について説明しましょう。

金管でふつうには出ない低音域がペダルトーンです。
トランペットの場合、五線下のF#(実音E)までが通常
音域で、この下のF(実音Eb)からがペダルトーンです。
その四度下のC(実音Bb)がペダルC(Bb)、そのオク
ターブ下がダブルペダルC(Bb)です。

ペダルはハイノートを開発するうえでもたいへん有効
な練習法ですけれども、正しいペダルの練習法はほと
んど伝わっていないのが現状。有益な練習であるにも
かかわらず落とし穴が多い、それがペダルトーンです。

●間違ったペダルトーン
 唇をゆるめて出す。
 バズだけでピッチをとる。
 長く吹き伸ばせる。

●正しいペダルトーン
 唇をゆるめないで出す。
 アゴを落とし口の中を大きくして
 エアパワーで出す。
 長く吹き伸ばせない。
 
唇をゆるめてペダルを出す人は、ハイノートでは唇を
絞める傾向があるようです。つまり「唇で」音程を調
節しようとする。しかしTMでは、音程を決める主舞台
は「口の中」にあります。ハイノートもペダルトーン
も、すべてアイコの上下運動とエアパワーで作り出し
ます。

正しいペダルトーンを出すときもエアのキックが必要
になり、これを「ローキック」と呼びます。

15-1.jpg
(図 【アでローキック】)


ペダルトーンの正しい練習方法は、TMの教則本
ハイ・エア・ビルドを参照してください。





<タブーフォー TABOO 4>
さて、TMにおいて注意しなければならない点を4つに
まとめたのが「タブーフォー」です。

タブー1:禁断シラブル「魚」
 使ってはいけないシラブルは「ウ」「オ」です。こ
 れらのシラブルを頭の中で思うと、舌のずっと奥の
 部分(舌根)が喉を絞めてしまい、コントロールが
 ききにくいのです。喉を絞めたようなサウンド、こ
 もった音は「ウ」「オ」のシラブルが原因の場合が
 あります。

 頭の中で「ド→ソ」のように歌いながら吹くと、口
 の中は「オ→オ」のシラブルを使う可能性が高くな
 ります。低音→高音は「ア→イ」、高音→低音は
 「イ→ア」と歌う習慣をつけるのは、「オ」のシラ
 ブルを避ける意味もあります。

 またタンギングするときも「トゥトゥトゥ」と発音
 すると「ウ」のシラブルで喉が絞まりがちです。低
 音は「タタタ」、高音なら「ティティティ」と発音
 してください。ダブルタンギングも「トゥクトゥク」
 ではなく、低音は「タカタカ」高音は「ティキティ
 キ」でやりましょう。


タブー2:無駄なロングトーン
 もし舌を開発したいのであれば、ほとんどのロング
 トーンは無駄な練習です。あまり舌が動かないから
 です。そして万一、ロングトーンがアンブシュアの
 安定や口輪筋の育成を目的としているのなら、それ
 は無駄を通り越して「害がある」練習となり得ます。
 唇周辺の意識を高めてしまうからです。

 TMではなるべく唇の意識を消し、舌へ意識を移動し
 たいのですから、唇周辺を鍛えるのはタブーです。
 例外的に舌を開発するすぐれたロングトーンがない
 わけではありませんが、一般論としてロングトーン
 は「細心の注意が必要な」練習であり、正しい知識
 がないなら「あまりやらないほうがいい」練習です。


タブー3:危険なバズィング
 基本的にバズィングはたいへん危険な練習方法であ
 ることを自覚してください。不用意なバズィングは
 絶対にやってはいけません。バズィングには大きく
 分けて三種類あります。

 a.リップ・バズィング
  → 唇だけでやるバズィング
 b.マウスピース・バズィング 
  → マウスピースでやるバズィング
 c.リードパイプ・バズィング 
  → マウスピースとリードパイプで
    やるバズィング

 楽器を通さないでやるバズィングは楽器を通して演
 奏するのとまったく抵抗が異なるため、使われる筋
 肉が違うのです。バズィングという練習は、本来必
 要ない筋肉を鍛えてしまう可能性がきわめて高いた
 め、やればやるほど楽器の上達を妨げる可能性があ
 ります。

 さらにTMの観点からいえば、バズィングは唇の意識
 を高めやすいので、リップ・バズィングは厳禁、リ
 ードパイプ・バズィングやマウスピース・バズィン
 グも、できれば禁止すべき練習と考えたほうがよい
 でしょう。


タブー4:アンバランスな体系
 TMでは唇の意識を消し舌の意識を高めることを、ト
 レーニング体系のすみずみにまで配慮しています。
 ところが、バランスのいい練習が必要だと考えて、
 舌も少し鍛え、唇も少し鍛え...とやってしまうと、
 それは結果としてアンバランスな練習体系になるお
 それが大きいのです。

 よいバランスとは、いろんなものをまんべんなく取
 り入れることではなくて、「中心」に置くべきもの
 と「周辺」に配置すべきものを明確にし、排除すべ
 きものはきちんと取り除くこと。それが適正なバラ
 ンスへとつながるのです。

 世の中にはたくさんの情報があふれていて、いろん
 な先生がさまざまなアプローチを提案しておられま
 す。けれどもあらゆる方法には共通する「一般原理」
 があるはずです。一見まったく逆のやり方に見える
 ものでも、ひとつ高い次元から見れば人類に普遍す
 る共通点が発見できるのです。

 表面的な方法の違いや流行にとらわれてフラフラす
 るのではなく、地球上の物体に働く物理学や人体の
 構造などに立ち返って、普遍的かつ合理的な原理を
 学んでください。

 迷信、根性論、権威主義などにもとづく不合理な方
 法は上達をはばみ、学習者をかならず苦しめます。

 複数の方法の「違い」に目を奪われることなく、そ
 れらの背後にある「共通点」を探す、つまり高い視
 点から戦略的にトレーニング体系を考えることをお
 薦めします。アンバランスな体系は、タブー中のタ
 ブーです。

タングマジックの連載は今回が最終回です。次回から
は「音楽家の心身開発/ジャズ☆ねこ気功」をお届け
します。お楽しみに!

つづきはこちら