リムがアニマルになる



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リムが唇をグリップする

mixiで杉山先生(drill#20さん)が主宰しておられる
「金管演奏の原理コミュ」の質問コーナーで、興味
深いトピックが話題になっていました。抜粋・編集
してまとめます。



Q:drill#20先生は、唇をリムにあずけるような感
  じとおっしゃっていたような記憶があります。
  グリップとは口笛を吹くような感覚で振動を支
  えるという解釈でよろしいのでしょうか?



A:「口笛を吹くような感覚〜」ではなく、私はリ
  ムが唇をグリップする感じになるのが理想だと
  思います。こうなって行くと唇の意識が消え
  て、唇がよりフリーになり、ゴードンが言って
  いた本当の意味でのLip forgetとなります。

  この感覚はマウスピースでバズィングを一生懸
  命している人達には絶対に訪れない感覚です。



Q:リムを唇でグリップするような感覚とあります
  が、トロンボーンのような大きなマッピでも同
  じことが言えますでしょうか?



A:トロンボーンもまったく同じです。
  ただ、「リムを唇でグリップする」ではなくて、
  「リムが唇をグリップする」のです。

  「リムを唇でグリップする」はマウスピースで
  バズィングしているような人が陥る感覚です。
  正しく練習が行なわれれば「リムが唇をグリッ
  プする」感覚が身に付きます。



Q:そうなると、リムが〜とは、楽器からある程度
  の力でプレスされる感覚になりますよね?
  リムが唇をグリップする感じというのは、具体
  的には、しっかり両手で楽器を握って、唇をグ
  リップする意識が必要になるのでしょうか?
  それとも、感覚的に何となくそういう風に感じ
  ながら練習すれば体得出来るものなのでしょう
  か?



A:「楽器からある程度の力でプレスされる感覚」
  「しっかり両手で楽器を握って、唇をグリップ
  する意識」はいずれもまったく違う危険な考え
  方です。Lip forgetが為されて、舌が正確に機
  能するようになった時に「リムが唇をグリップ
  する」感じが自然につかめるようになります。






「リムが」唇をグリップするのであって、「唇が」
何かをするのではありません。

表現上は小さな違いですけれども、これは「なぐる」
と「なぐられる」くらい正反対の現象です。

金属であるマウスピースのリムが、あたかも生命を
得たかのようなふるまいをする、いわば「アニマル
リム」が誕生するような感覚です。


よく見かける誤った表現

唇がリムをグリップする
唇がリムにグリップする
リムを唇でグリップする
リムで唇をグリップする




これらの誤った表現は、いずれも「唇が」もしくは
「自分が」主体となってリムと唇の関係を作ろうと
する運動を表現しています。いわば「自者中心」の
運動構造です。

drill#20先生の言葉は、それとは180度反対の現象
を表現しています。




宮本武蔵とタングマジック

この現象と共通することを宮本武蔵が「五輪書」に
書き残しています。



 【参考文献】宮本武蔵は、なぜ強かったのか?
  『五輪書』に隠された究極の奥義「水」 著:高岡 英夫


本書は剣聖・宮本武蔵の主著「五輪書」を運動科学
的視点で徹底的に読み解いた驚愕の書物です。

この本が興味深いのは、武蔵の身体の使い方にタン
グマジックと不思議な一致を見いだせる点です。

もちろん本書には金管演奏のことはまったく登場し
ませんが、力学的には共通点が多い。TMを学ぶ人
はもちろん、すべての金管奏者にとってヒントとな
りうる書物です。




武蔵は怪力ではなかった

二本の刀を自在に操ったことから、武蔵には「怪力
説」があります。



剣道人口の減少を憂えたある師範が、減りつつある
剣道人口を増やすために、二刀流を普及させて剣道
への関心を高めてもらおうと提案して、二刀流を試
行していた際の話です。

実際に二刀流を剣士たちにやらせてみると、誰もが
思うようなスピード、テンポで剣を動かすことがで
きず、二刀流対一刀流で試合をしてもまったく勝負
にならなかったというのです。

その原因は先の物理学的な問題にあるわけですが、
一刀流のスピード、テンポに追いつけず、打ち負け、
当たるとはじかれてしまう二刀流の現実を直視した
その師範は、「二刀流の剣士を育てるには、腕力を
徹底的に鍛えさせるしかない」
と結論付けたという
のです。(pp103-104)



この師範の発想が現代の金管指導者に通じるもので
あることに、TM学習者はお気づきになるでしょう。

ロングトーンで、あるいはバズィングで、口輪筋を
鍛えて演奏の耐久力を獲得しようとするのは、武蔵
が怪力であったはずだと考えることに似ています。

武蔵は現代人が想像もつかないような、柔らかい身
体の使い方をして剣を操っていたことが、本書を読
み進むうち明らかになっていきます。

それは金管演奏で言えば、唇に力仕事をさせること
をやめ、舌に主役の座を移すことと同じ力学メカニ
ズムだと考えられます。

武蔵は怪力どころか、ベロベロにゆるんで、水のよ
うに流体的な動きで剣技を組み立てていたことが、
五輪書(水之巻)にもはっきりと具体的に記載され
ているのです。

しかし「水之巻」はほとんどの人(武術関係者を含
む)に読み飛ばされる傾向が強い。それは力んで固
まった現代人にはまったく理解できない身体づかい
だからでしょうか。




他者中心運動構造

そこで「アニマルリム」です。リムが生命を得て唇
をつかむ(グリップする)ような現象と、宮本武蔵
の剣術を支える運動構造には共通点があります。そ
れを本書では「他者中心運動構造」と呼んで、以下
のように解説しています。



自分自身ではなく、遠く離れた刀の中心を動きの中
心にして刀を動かすやり方です。そうすると、自分
の手の内の中心はなくなって、 まさに武蔵のいうと
ころの「刀の心のままに」従う動きになるのです。
武蔵は「自分の心のままに」従っていてはダメだと
教えているのです。(p111)


クラーク、ゴードン、そして杉山先生へと受け継が
れてきた「金管演奏の原理」は、五輪書で宮本武蔵
が書き残した内容とたいへん似ている。

なぜ5オクターブの音域が当然のことなのか、なぜ
金管楽器は正しく吹けばバテないのか。その力学的
合理性を、江戸時代に書き残した剣術家がいたこと
に静かな感動を覚えます。