すぐれた人は背中がいい



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【インデクス】
第1回 猫背の反対語は何だろう?
第2回 含胸抜背とは
第3回 胸と背について整理してみます
第4回 コネ背のすすめ






第1回 猫背の反対語は何だろう?


猫背と鳩胸

猫背がよくない姿勢なのは言うまでもありません。
それでは猫背の反対語は何かなと思って調べてみま
した。すると「鳩胸(はとむね)」という言葉をあ
げている例を見つけました。


  猫背 ←反対語?→ 鳩胸


そうなのか...と、鳩胸を調べてみると、これはなん
と病名だったんですね。知らなかった☆


鳩胸、漏斗胸(ろうときょう)はどんな病気か

前胸壁(ぜんきょうへき - いわゆる胸板)が
前方に突出し、あたかも鳩の前胸部を思わせる
ような胸郭の変形を鳩胸といい、逆に前胸壁が
陥没し、あたかも漏斗(ろうと)のような外観
を示す変形を漏斗胸といいます。




まあ、それはそれとして、猫背でも鳩胸でもない、
ちょうどよい姿勢のことをさす言葉がないものか。
どうやら日本語にはないみたいなんです(どなたか
ご存じの方がおられたら教えてくださいませ)。

そこで、暫定的に「コネ背(こねぜ)」という言葉
を使うことにしました。ネコ背の反対だからコネ背
です。名前はフザケテますけど、外柔芯剛の効いた
理想的な姿勢のことを意味します。

なぜ「コネ背」なる用語が必要か。太極拳で重視す
る「含胸抜背(ハンションバベイ/がんきょうばっ
ぱい)」との関係でそれを考察してみましょう。







第2回 含胸抜背とは


含胸抜背、もとは涵胸抜背と書いたそうです。どち
らも中国音は「ハンションバベイ」。涵の字は日本
語では「ひたす」と訓読みするとか。

したがって含胸なら「胸を含む」、涵胸なら「胸を
ひたす」という意味になりますが、どちらもなんだ
かよくわかりませんね。

抜背のほうは「背を抜く」だから、なんとなく背中
をリラックスさせるのかなと想像がつきます。でも
含背/涵胸のほうはイメージしにくい。これには日
本だけでなく、中国でもいろんな解釈があったとい
うことです。いくつかご紹介しましょう。


【解釈1:持田美智子研究レポート
"涵胸"はどんな動作のときも、胸を張って緊張して
はいけないことを教えています。(中略)更に形だ
けでなく、内面的なもの、寛大な精神をも含めた余
裕のあるのびのびとした空間を作り出すことが含ま
れています。

"抜背"は背筋を上下に伸ばし、頭と尾骨との"上下
一線"になり、両腕を左右開き、空間を形成させま
す。"牽動往来気貼背"何かの動作をする時には、気
は背にあり、背骨に収斂していなければならないと
いうことです。


【解釈2:モーラー奏法について
例えば中国系武術などでは「含胸抜背」と称され基
本とされているフォームがよく出てきますが、とて
も参考になります。胸をはらずに背中に気を通す事
と説いている方もいますが、「気」となるとなにや
ら怪しく(?)感じるので、ここでは「感覚」と捉
えた方が良いと思います。


【解釈3:太極拳の姿勢
涵胸抜背(かんきょうばつばい)
この姿勢は胸を張らずにゆるめて凹ませ気味にして
背中の方を張る姿勢である。あまり意識しすぎると
猫背になる。胸を張れば尻があとに出て脊椎(せき
つい)が湾曲して、正しい腹式呼吸ができない。


【解釈4:含胸抜背とは
今回のネタ本は太極拳関係の3冊(『太極拳に学ぶ
身体操作の知恵』『太極拳理論の要諦』『太極拳秘
術』)をピックアップ。(中略)

もし、あなたが「含胸抜背」は胸をすぼめることだ
とお考えでしたら、その考えを改めましょう。この
3冊はいずれも、「含胸」は胸をすぼめる(背中を
丸める)ことではないと教えています。

実は、かつて「含胸抜背」について、「胸を含むと
は、胸をやや内側にすぼめることを言う」と書いた
本があったのです。『太極拳秘術』によれば、これ
は日本だけのことではなく、中国でも同じような誤
解があったのだそうです。

では、「涵胸」とはどういう意味でしょうか。「こ
れはへこむ、くぼむのではなく、物事を包容できる
ように空間を作る、余裕を持つ、伸び伸びと開くこ
とであることは明らかです」(太極拳理論の要諦よ
り)


【解釈5:雲の手通信
含胸抜背。楊名時太極拳の「稽古要諦」にある言葉
です。「胸は張らずにゆとりがあり、背中はのびの
びと広げる」という意味です。いわば表裏一体の状
態を指しています。「胸は突き出してはいけない。胸
を突き出すと、気が外へあふれて出ることになる」
「気は背中に貼り付ける感じで」と楊名時先生は
「大極」誌の中で解説されておられます。


【解釈6:中国武術基礎講座
「含胸」とは字の通り胸の前を丸く含むようにする
ことです、「抱球」の姿勢では大きなボールを抱き
かかえるようにすると胸は丸く含んだ形になりま
す。そして「抜背」はその胸を含み、背も丸くなっ
た状態から、背筋を引き下げることです。

02gankyou.jpg







第3回 胸と背について整理してみます


含胸・涵胸とは

●どんな動作のときも、胸を張って緊張してはいけない
●余裕のあるのびのびとした空間を作り出す
●胸を張らずにゆるめて
●胸をすぼめる(背中を丸める)ことではない
●へこむ、くぼむのではなく、物事を包容できるように
 空間を作る、余裕を持つ、伸び伸びと開く
●胸は張らずにゆとりがあり
●胸は突き出してはいけない
●胸の前を丸く含むようにする



抜背とは

●背筋を上下に伸ばし、頭と尾骨との"上下一線"になり、
 両腕を左右開き、空間を形成させ
●背中に気を通す
●背中の方を張る
●胸をすぼめる(背中を丸める)ことではない
●背中はのびのびと広げる
●気は背中に貼り付ける感じで
●背も丸くなった状態から、背筋を引き下げる



運動科学的視点から見た立位

運動科学総合研究所において、約10年間、さまざま
な角度から「立ち方」について習いました。そこで
得た情報からは以下のようなことが言えます。

●腰はゆるめ、反らさず、引かず
●胸はゆるめ、張らず、凹まず
●呼吸にともなって胸が開くとき背中を閉じない
●胸も脇も背中もフワッと広がる
●百会(頭頂部)と会陰(股間)を結ぶラインをキープする

細かい点をあげればさらにいくつもあるのですが、
含胸抜背との関係でいえば、以上がキーポイントに
なります。

これは気功だけでなく、武術、スポーツ、ダンス、
器楽、声楽など、あらゆる身体運動に共通する基本
姿勢となります。


シンプルにまとめると

これらの情報を思い切って整理してみましょう。

胸 → 張らない ゆったりする → 開く

背 → まっすぐ のびのび → 開く



つまり胸も背も「楽にゆるめて開く」。これが含胸
抜背という教えの本質ではないかと思われます。






第4回 コネ背のすすめ


理想の姿勢をコネ背と呼ぼう

ここで話は「コネ背」に戻ります。ネコ背にならな
いで、背筋がゆったり、スッと伸びた姿勢がコネ背
(ネコの反対だからコネ)です。

このとき鳩胸にもなっていません。つまり含胸抜背
です。先にくわしく考察したように、含胸抜背は
「緩胸緩背」であり「開胸開背」でもあります。胸
も背も「ゆるめて開く」。極意歌風に表現するなら
こうなります(水行末作)。


 コネ背とは 胸は張らずに 凹ませず
 背中丸めず 反らさぬことぞ



胸椎(胸部の背骨)はもともとゆったりとした後湾
カーブを描いています。このカーブをさらに丸める
と猫背になり、無理にまっすぐ伸ばすと背中を閉じ
た鳩胸的な姿勢になります。

理想の姿勢である「コネ背」は、胸椎を自然な後湾
カーブの状態にキープすることといえます。

sekitui.jpg
脊椎脊髄用語辞典より




チェストダウンしないために

いかなるときも「リラックスして自然な呼吸をする
のがいい」という指導は正しいと思います。しかし
問題は「リラックスして自然な」姿勢をとろうとす
ると、多くの人が猫背気味になることです。それを
直そうとすると、今度は背中を閉じて胸を突き出し
た鳩胸的な姿勢になる。

胸を落とした猫背ではなく、胸を張った鳩胸でもな
い、ナチュラルでニュートラルな姿勢がとれないも
のでしょうか。それに対するひとつの提案が「コネ
背」です。

ひとまず胸のことは忘れて背骨に意識を集中します。
背骨が丸まっていないか、あるいは反っていないか
をチェックすることで、よい姿勢に近づこうという
アプローチをとるのです。

TMで「チェストアップ」を難しいと感じている場
合も、コネ背を意識することが突破口になる可能性
があります。




能力の高い人は背中が違う

身体運動において「背中の開発」は、たいへん重要
なテーマであるにもかかわらず、あまり関心が持た
れていないかもしれません。

すぐれた能力を持つ人は、対象を「背で感じ」「背
でとらえる」。たとえば天才画家とアマチュア画家
では同じものを見ても目に写る風景がまったく違う
といわれるのは、こういうところに認識の差がある
と考えられます。「目だけで」見るか、「背でも」
見るかの違いです。

音楽家なら「背で聴く」「背で奏でる」という表現
が、武術家なら「背でとらえ」「背で投げる」とい
う表現が使えるでしょう。背骨が高感度なセンサー
として機能し始めるわけです。


註:能力の高い人は背中の開発が進んでいると考えられますが、
 そのことを本人が自覚しているかどうかはまた別の話です。



なんの分野においても、人間の実力は多かれ少なか
れ背中に出ると考えています。その人の背中を見た
りさわったりすることで、パフォーマンスのレベル
がわかるということですね。

背中の開発については機会をあらためて発表するつ
もりです。あくまでもその基本となるのはコネ背で
あり、トレーニングとしてはフィッシュスイムが有
効といえるでしょう。

(了)